この記事では、自社のブランドを定義するために有用な「ブランド・アイデンティティ・プリズム(Brand Identity Prism)」というフレームワークについて、詳しく解説を行います。
なお、「ブランド」、「ブランディング」、「ブランド・アイデンティティ」などのブランドの基礎理論については、前回の記事「「ブランド」「ブランディング」とはそもそも何なのか?ブランド作りの基本を理解する」をご参考ください。
目次(Table of Contents)
ブランド・アイデンティティ・プリズムとは?
ブランド・アイデンティティ・プリズムは、ブランド・アイデンティティの定義に必要な要素を、プリズム(六面体)の形で整理するフレームワークです。フランスのHEC経営大学院の教授であるジャン・ノエル・カプフェレが提唱しました。
カプフェレは、米国のデヴィッド・アーカーやケヴィン・レーン・ケラーなどと並べられる世界的なブランド論の権威であり、ヨーロッパのラグジュアリ―ブランドの分析で有名な研究者です。
ここから本題に入ります。ブランド・アイデンティティ・プリズムは、以下のフレームワークを用いて作成します。
まず、縦軸と横軸の関係を理解しましょう。縦軸は一方が自社の側、もう一方が顧客の側となります。自社の側にはブランド・パーソナリティ、ブランドの物理的特長など、自社が定めるものが置かれます。顧客の側には、そもそも顧客がどのような人たちなのか(ターゲット)と、顧客が主観的に持つセルフ・イメージが置かれます。
横軸は、一方が外的要素、もう一方が内的要素となります。内的要素は、自社内のメンバーや文化、顧客の心の中に存在するものが置かれます。外的要素はその逆で、外側に現れるものが置かれます。
また、中央にはロゴなどのブランド・シンボル(象徴)を置きます。
次に、六面体を構成する6つの要素について説明します。
Physique:ブランドの物理的特長
パッケージ、ネーミング、カラー、ロゴ、キャッチコピー、ジングルなど、ブランドを物理的に表現するものを指します。店舗であればその概観や店内の雰囲気、Webサービスならユーザーインタフェースなども含まれます。
Personality:ブランド・パーソナリティ
人は皆、独自の個性(パーソナリティ)を持っているように、企業もそれぞれのパーソナリティを持っています。そのパーソナリティを明文化したものがここに入ります。
Relationship:顧客とブランドの関係性
名称の通り、顧客とブランドがどのような関係性を築くかを指します。顧客とブランドが、共通する価値観や目的、意義を通じて精神的に繋がり、顧客の行動にポジティブな影響を及ぼすとき、関係性ができたと言えます。
Culture:文化
ブランドが持つ価値観や行動規範などの文化を指します。顧客がブランドの持つ文化に共感すると、強固なロイヤルティが形成されます。
Reflection:ブランドのターゲット
ブランドの主要な顧客となる人々はどのようなグループなのかを指します。性別・年代などの表面的なデモグラフィック情報だけでなく、心理的な特徴やライフスタイルを明確にすることが重要です。
Self-Image:セルフ・イメージ
顧客自身が、ブランドと接したり、ブランドを思い出したりしたとき、自分についてどのようなセルフ・イメージを持つかを指します。
このように、ブランド・アイデンティティの定義に必要な要素を、2つの軸で整理・体系化したものがブランド・アイデンティティ・プリズムです。
ブランド・アイデンティティ・プリズムの事例
フレームワークの説明は以上にして、次は事例を紹介したいと思います。
NIKE(ナイキ)の事例
まず、スポーツブランドのNIKE(ナイキ)のブランド・アイデンティティ・プリズムを例に挙げます。
まず、PhysiqueにはCMなどでお馴染みのキャッチコピー「Just do it」が書かれています。
いくつかの要素に、AmericanやSportive、Coolという言葉が並んでいます。このような価値観を掲げる米国発ブランドは非常に多いですが、NIKEはそこに「brand conscious」を加えています。つまり、ブランド志向が強く、そのことに誇りを持つ若者が自分たちの顧客だと定義しているわけです。
Ferrari(フェラーリ)の事例
続いて、自動車メーカーのFerarri(フェラーリ)を取り上げます。以下の通りです。
ブランドのターゲットは「wealthy, middle-aged men wanting to express their social status(富を持ち、社会的ステータスを表現したいミドル男性)」と、極めて明快です。個性には「Ambitious(野心的)」や「Dominant(支配的)」、セルフ・イメージは「I am the elite(私はエリートである)」「I want to be the best(私はNo1になりたい)」とあります。
全体として、一般庶民からすれば挑発的な表現が並んでいますが、ブランドの存在感は極めて強烈、かつ輪郭がはっきりしています。高級自動車メーカーの代名詞だと世界中で認知されているのも頷けます。
事例として2つのブランドのブランド・アイデンティティ・プリズムを挙げましたが、このフレームワークを使うことで、ブランドがどのようなビジョンや個性を持った存在なのか?、社会における位置づけや顧客との関係性はどうありたいのか?、といった基本的な事柄を、非常に明快に表現できることがわかると思います。
また、ブランド・アイデンティティ・プリズムは、どのような業種の企業であっても、どのような製品・サービスであっても適用させることができます。ぜひ一度、実務に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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