Webマーケティングの起点になるのは検索です。人が何かに関心を持ったり、行動を起こしたりするときに最初に行うのが検索であり、その瞬間をとらえてSEOや広告の施策を打つのがWebマーケティングの最も王道的な方法になります。

今回は、ユーザーの検索行動に基づいて効果的なマーケティング施策を行うためのフレームワークをご紹介します。

人はなぜ検索するか?

ところで、人が検索を行う背景には、様々な動機や文脈があります。

・テレビを見ていたら知らない芸能人が出てきたのでどんな人が知りたい
・仕事の書類に知らない専門用語が出てきたので調べたい
・要らない家具を実家に配送したいけど、必要な料金や手続きを知りたい
・インフルエンザのワクチン接種をするため、近所のクリニックで予約をしたい
・石鹸が残り少なくなってきたので安いショップでまとめ買いしたい
・仕事の発注先の企業について、どんな企業なのか詳細を知りたい
・資産運用に興味があるけど何をしたらいいのかわからないので、初心者向けの記事を読みたい
etc…

マーケティング活動を適切に行うためには、ユーザーの行動の目的を知る必要があります。検索キーワードには表れない、本当のユーザーの意図を知らなければ正しいアプローチができません。

ところが、データとして取得できる検索キーワードを見るだけでは、ユーザー1人1人の検索の目的を知ることはできないし、マーケティング施策の重要度の判断もできません。

3つの行動フェーズ

そこで有用なのが、ユーザーの検索行動を「日常フェーズ」「比較フェーズ」「指名フェーズ」の3つの行動フェーズから捉えて、フェーズごとにマーケティング施策を検討するフレームワークです。次の通りになります。

ユーザーの3つの行動フェーズ

これは、ユーザーの心理や行動の流れを整理したフレームワークであり、自社目線で整理するAISASなどのマーケティングファネルや、AARRR(アー)モデルとは異なります。むしろ、カスタマージャーニーマップを、ユーザーの具体的なWeb上の行動に即して定型化したものだと言えると思います。

続いて、1つ1つのフェーズについて説明します。

日常フェーズ

ユーザーは大半の時間を、家庭や会社における「日常フェーズ」として過ごします。気になったことや仕事上の疑問について調べるため、あるいは動画の視聴を楽しむために、GoogleやYouTube、Twitterなどで検索を行います。使われる検索キーワードは「情報検索(Infomational Query)」と呼ばれ、3つのフェーズの中で圧倒的に種類が多くなります。

日常フェーズの検索においてたどり着くサイトは、何らかの疑問を解決してくれる情報サイトやブログ記事、クチコミサイト、wikipedia、Web検索結果や地図検索結果に表示されるリスティング情報などになるでしょう。

日常フェーズを攻略するために重要なのは、多彩な情報ニーズや検索キーワードに応えるための豊富なコンテンツ群です。ユーザーの悩みや関心事をよく理解すると同時に、所謂「ロングテール」を含めて検索キーワードの需給バランスの調査を丹念に行いましょう。自社サイトでもっと伸ばせるページや、新たに流入を獲得できるテーマが必ず見つかるはずです。

また、自社の見込み客だけをターゲットにするのではなく、幅広いユーザーをターゲットに広めることも大切です。詳細は「SEOにとって最重要な「ターゲット拡張」の考え方」にてご説明しています。

日常フェーズにおける検索行動を、マーケティング上の資産価値向上に繋げることができるのが、SEOやコンテンツマーケティングと呼ばれる分野の大きな長所です。より多くの検索キーワードから流入があるほど、より多くのページにアクセスがあるほど、WebサイトがGoogleから高く評価されます。Googleの評価が高まり、検索結果で上位表示しやすくなることによって、後の比較フェーズや指名フェーズでも大きな力を発揮することになります。

なお、自社の事業が広告モデルのメディア運営の場合は、日常フェーズでのコンバージョン(広告のクリックなど)となることがあります。

比較フェーズ

何らかのサービスや商品を入手しよう思い、比較検討を開始するのが「比較フェーズ」です。ユーザーがお金を払う意思を示した瞬間であり、ビジネス的には最も競争が激しいフェーズです。SEOにとってもリスティング広告にとっても、ここで効率良くユーザーの関心を惹くことに成功した者がビジネスの勝者になります。

比較フェーズで使われる検索キーワードは「購入検索(Transactional Query)」です。キーワードの例として、「~ 比較」「~ 安い」といったものがあります。これは、サービス・商品の特長や価格を比較したり、一覧表示してその後の深掘りに繋げたりするための検索キーワードです。「~」にはサービス・商品が属する何らかのジャンルが入ります。あくまでジャンル名(カテゴリ名)であり、特定のサービスや商品を指す名称ではない点が重要です。例えば「プロバイダ 比較」「ホテル 安い」などが該当します。

購入検索によってユーザーがたどり着くサイトにも様々なものがあります。例としては、多数のサービス・商品を並べて掲載する比較サイトや情報サイト、Web検索結果やGoogleマップの検索結果におけるリスト表示などがあります。

比較フェーズのマーケティング施策としては以下があります。

1. 購入検索(Transactional Query)を狙ったSEO施策
2. 購入検索(Transactional Query)を狙ったリスティング広告
3. 比較サイト、特定分野の情報サイトなどへの自社のサービス・商品の掲載
4. ECサイトでの商品掲載とサイト内での上位表示
5. Googleマップ等の地図サービスへの店舗情報の掲載
6. 他社メディアサイトで自社を紹介してもらうための広報/PR活動

重要な点は、1~2のSEOやリスティングは重要であるものの、競争が激しく難易度が高い点です。多くのサイトが購入検索のキーワードに向けてSEO施策をほどこし、リスティング広告の単価も上昇します。

そのため、3~6のように、他社サイトや地図サービスを起点にして認知してもらうことも重要な施策となります。他社サイトで認知してもらった後は、その場で「問い合わせ」などのコンバージョン獲得を目指したり、自社サイトへの流入や次フェーズの指名検索(Navigational Query)に繋げたりすることになります。

なお、自社のビジネスが比較サイトや特定分野の情報サイトの場合は、比較フェーズでのコンバージョン獲得がゴールとなります。

指名フェーズ

比較した結果さらに情報を深掘りしたいときや、購入や申し込みなどのためにもともと知っている特定のサイトに行くために検索を行うのが「指名フェーズ」です。

指名フェーズでは、特定の会社名やサービス名、商品名などの、指名検索(Navigational Query)と呼ばれる検索キーワードが使われます。アマゾンで何か購入したいときの「アマゾン」や、レシピを知りたいときの「クックパッド」、iPadを購入したいときの「iPad」などが該当します。

社名を検索すれば確実に自社のコーポレートサイトがトップに出てくるようにする等、SEOやリスティング広告もこのフェーズにきちんと対応すべきですが、「比較」フェーズに比べると難易度は下がります。なぜなら、会社名で上位表示させやすいのはその会社のサイトであり、サービス名・商品名で上位表示させやすいのも基本的にそれを提供している会社が持つページだからです。(厳密には、他社のキーワードを狙ったSEOやリスティング広告のテクニックは存在します)

このフェーズで重要なのは、自社サイトのコンテンツやUI/UXデザインと、コンバージョンの設計です。より見やすく・使いやすいサイトに改善すること、ユーザーが求める情報を確実に届けること、またコンバージョンポイントの浅深のチューニングやCTA(Call to Action)の最適化などを行うことで、サイトが目標とするビジネス成果を上げることを目指します。

「コンバージョンポイントの浅深のチューニング」は、Webマーケティング活動の中で最も大きな効果が出やすい取り組みの1つです。例えば、toCサイトなら複雑そうな「会員登録」の前に、情報を取得するだけの「メールマガジン登録」や「SNSのフォロー」を置く。toBサイトなら、今までは「問い合わせ」しか置いていなかったサイトに、製品を一定期間だけ無料で利用できる「無料トライアルの申し込み」のフォームを作って訴求したりします。このように、より浅いフェーズでユーザーとの接点を持つことで、次の施策に繋げやすくしていきます。

逆に、コンバージョンポイントが浅すぎてその後のビジネスに寄与しない(LTV向上の効率が悪い)ときは、コンバージョンまでの経路を変えたり、深いところにポイントを置いたり、CTAを変更したりすることが考えられます。

最後に

以上の説明の中に登場した「情報検索(Infomational Query)」「購入検索(Transactional Query)」「指名検索(Navigational Query)」の3つの検索タイプは、Googleの検索品質担当者として著名なMatt Cutts氏がかつて公開したものです。

フレームワークとしてこの整理をそのまま使っても良いのですが、検索キーワードだけでなくユーザーの心理や行動の流れをより強調したいことと、SEOだけでなく他のマーケティング施策を含めて包括的に整理しやすくしたいことから、「日常フェーズ」「比較フェーズ」「指名フェーズ」という3つの表現にしています。

なお、同じキーワードが別のフェーズで使われることも多数あります。例えば、「インフルエンザ」と検索したユーザーは、今年の流行の状況を知りたいのかもしれないし、予防接種に関する不明点を明らかにしたかったのかもしれないし、熱があるので自分がインフルエンザかどうか疑っているのかもしれません。そのため、検索キーワード”だけ”を細かく分析するのではなく、背景にあるユーザーの意図や文脈を理解することが大切です。その理解を進めるために今回のシンプルなフレームワークが活用できると思います。