「エレベーターピッチ」とは?

スタートアップやIT業界では、プロジェクトの発足時に「インセプションデッキ(Inception Deck)」というフレームワークを使って、プロジェクトの目的や概要などの骨子を明らかにすることがよくあります。

このインセプションデッキの1項目に、とても有用な「エレベーターピッチ」というフォーマットがあります。

エレベーターピッチを活用すると、ビジネスのアイディア(仮説)について、関係者間で意思統一をはかったり、効果的に仮説の検証することができます。新しい商品やサービスの開発はもちろん、マーケティング用途のコンテンツ類にも活用できます。有名なものなので知っている方も多いと思いますが、実務で役に立つ場面が多いので、改めてご紹介したいと思います。

エレベーターピッチのフォーマットは次の通りです。

このフォーマットに沿って記入をするだけで、顧客や提供価値の本質を表現できます。そのため、書いたものを自分で時間をかけてよく吟味したり、誰かにレビューしてもらうことで、価値提案や差別化の要因に説得力があるか、全体として違和感がないか等を検証することができます。

大勢の人にレビューしてもらうのは大切です。プロジェクトのチーム内だけではなく、チーム外の人、社外の友人や家族などにも見てもらうとよいです。フォーマットはたった2文で誰にでもわかるようにできているため、フレームワークの解釈にとらわれず、内容そのものの是非を確認しやすくなっています。

作ったエレベーターピッチを人に見てもらうと、「よく意味がわからない」「価値がありそうに思えない」「成功しそうな雰囲気を感じない」など、いろいろな答えが返ってくるはずです。もちろんレビューのすべてが正しいわけではありませんが、自分では気付くことのできない視点で考える機会を与えてくれるという点で、とても重要です。

何かアイディア(仮説)を思いつきたときは、いきなり製品開発などを始めるのではなく、エレベーターピッチを使って検証しておくことをお勧めします。また、新製品だけではなく、既存の製品について、改めて理解を深めたいとき、方針転換や改善を検討するとき、商品ラインナップの統一をはかるとき等にも有効です。

もちろん、エレベーターピッチはアイディア(仮説)レベルの意思統一や検証に使うためのものであり、この段階をクリアしても、新製品の成功が保証されるわけではありません。この後、プロトタイプの検証や、製品化、市場投入の効果検証などのステップを経ていくことになります。

エレベーターピッチの例

理屈だけではわかりにくいため、エレベーターピッチの例をご紹介します。

オンライン英会話「レアジョブ」のエレベーターピッチ

最初は、オンライン英会話「レアジョブ」の例です。

既存の英会話教室に対する優位性が端的に表現されていると思います。

小型水筒「ポケトル」のエレベーターピッチ

続いて、小型水筒「ポケトル」の例です。

「ポケトル」は、超ミニサイズの水筒という新鮮な発想でヒットを飛ばしたアイディア商品ですが、そのアイディアの骨子は、エレベーターピッチで的確に表現することができます。

エレベーターピッチと3C分析の関係性

実は、エレベーターピッチはマーケティング戦略の超基本フレームワークである3C分析に似ています。表現形式は全く違うものの、顧客、競合他社、自社の3点の重要項目を分析対象とする点は共通しているためです。

3C分析では、顧客、競合他社、自社の順にリサーチを行ってそれぞれの課題や重要トピックを網羅的に挙げていきます。ベン図上で重なりあう部分に「顧客の課題を解決できる」「競合他社が提供できない」「自社が提供できる」という3条件を満たした、自社独自の提供価値(バリュープロポジション、ユニークセリングポイント、事業機会などとも呼びます)の仮説を抽出します。

3C分析は事実を列挙できることに、エレベーターピッチは全体を文章で表現できることに利点があります。

逆に、3C分析の弱点は、列強した事実から提供価値を抽出していく過程が、各人の分析力や表現力に任されている点です。また、エレベーターピッチの弱点は網羅性に疑問がある点です。フォーマットの記入欄を埋めて文章を作っただけでは、たまたま思いついた事項をピックアップしただけであり、他の重要トピックを見落としている可能性があるためです。

このような双方の弱点は、3C分析とエレベーターピッチを組み合わせて使うことで解決できます。まずは3C分析で網羅的に事実を取り上げて、提供価値のアイディア(仮説)を設定します。さらにエレベーターピッチで、その全体を文章で表現して、妥当性があるか、違和感が無いかを検証します。

以上のプロセスを経ることで、アイディア(仮説)の発想と設定、検証のサイクルを、より丁寧に回すことができます。

あらためて作業ステップを記述すると次の通りになります。

① 3C分析のフレームワークで重要な事実を列挙して、提供価値の仮説を発想・設定する
② ①をもとにエレベーターピッチを作成する
③ エレベーターピッチを多くの人に見てもらい、仮説の妥当性を検証する
④ 検証結果をもとに、必要に応じて①から検討・確認をやり直す

おわりに

以上で解説してきた通り、エレベーターピッチと3C分析を組み合わせることで、アイディア(仮説)の立案と検証を的確に進めることができます。どちらも1枚の図で表現できるフレームワークであり、関係者間の意思統一をはかりながら一連のプロセスを進めるのも容易です。

ぜひ一度、騙されたと思ってエレベーターピッチを作ってみてください。「こんな製品があったら絶対成功するよね」と思っていたアイディアでも、その弱点が見えてきます。十分に理解しているつもりだった既存の製品に対して作ってみると、意外と理解しきれていない点、曖昧な点が残されていることに気付くと思います。