最近、西口一希さんの「顧客起点マーケティング」という本がネットで話題になっています。私も読んでみたところ、とてもわかりやすく、化粧品などの一般消費財の分野においては実用的なフレームワークになっていると感じました。

一方で、理論の骨格としては、現代マーケティングを確立したフィリップ・コトラーが説く内容と変わるところはありませんでした。そのため、基本的なマーケティングの理論をきちんと学んでおくことが大切だと改めて感じました。

そこで今回は、マーケティング理論の基本を整理したものをまとめておこうと思います。この内容は、 業界の標準・定番とされている フィリップ・コトラーの「マーケティング原理」などを参照しつつ、実務を経験しながら重要なポイントを整理したものです。この内容をスライドに起こしたものを基礎概念の説明会でも使っています。

マーケティングの基礎理論は、どのような業種・商材にも適用することができます。「自分の業界は特殊だから・・」と言う人も多いですが、特殊だと感じる点について事実を1つずつ解きほぐしていけば、案外、標準的な考え方で対応できることがわかるはずです。

マーケティングの全体像を1枚の図にしたものが以下です。

マーケティングのプロセスの全体像
マーケティングのプロセスの全体像

以下では各プロセスについて順番に説明します。

環境分析

まずは、事業を取り巻く環境の分析を行います。このフェーズでは、思いつく事実をできるだけ多く、漏れなく挙げることが重要です。この情報は必要か?事業にあるか?などと悩む必要はなく、思いついたものを全てリストアップしていきます。

環境分析のアウトプットは、「自社にとっての事業機会は何か?」を発見することです。環境分析は、漫然と行うと”情報を集めただけで終わり”になることも多く、そのせいかあまり重視しない人も多いですが、機会を発見するという明確なゴール設定を行えば、重要性に気付くことができると思います。

すべての事業は、機会を発見することから始まります。以下で説明するフレームワークを利用して情報の整理を行いながら、事業機会の仮説を導き出していきます。

PEST分析

Politics(政治)、Economy(経済)、Society(社会)、Technology(技術)の4つの頭文字を取った分析ツールです。世の中全体の動きで自社に関係する事柄について、4つに分類した上でリストアップしていきます。

PEST分析
PEST分析

3C分析

Customer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つの要素について、ポイントを列挙します。自社に都合のよい分析にならないように、「顧客」→「競合」→「自社」の順番で行うことが一般に推奨されています。

以下の図のように、「顧客が求めていること」、「競合が提供できないこと」、「自社が提供できること」の3つの条件を満たす領域に来るものが何なのか?を考え抜いて、明確に言語化しましょう。これが自社にとっての事業機会の仮説であり、事業活動の土台になるものです。

3C分析
3C分析

ポイントのリストアップにはいくつかのコツがあります。まず「顧客」に関しては、顧客をとりまく環境や顧客のニーズを洗い出すこと、特に顧客の「KBF(購買決定要因)」を見出すことが重要です。

「競合」は、「直接競合」と「間接競合」が存在します。「直接競合」とは、顧客が商品・サービスを検討するときに選択肢として挙がる相手です。法人向けの商品・サービスであれば、コンペで競うところはどこかと考えるとわかりやすいでしょう。「間接競合」とは、同じ顧客の同じニーズに対して、別の商品・サービスを提供する相手のことを指します。例えば、ファミレスと定食屋が並んで建っていたら飲食店として直接競合になりますが、お腹を満たすニーズに応えるという意味ではデリバリーサービスやスーパーマーケットが間接競合になります。

「競合」を分析する点のポイントは、「直接競合」と「間接競合」について具体的な相手先をピックアップすることと、それぞれの強み・弱みを分析する点です。

「自社」については分析者自身がよく知っていることであり、いくらでも情報を挙げることができるでしょう。「顧客」の環境や「KBF(購買決定要因)」、さらに「競合」の強み・弱みをふまえて、自社についてはどうなのか?という観点でリストアップを行うと、論点が明確になりやすいです。

最終的なアウトプットは、図中の「事業機会」の領域に現れます。すなわち、「顧客が必要としていて、競合には提供できないものの、自社なら提供できるもの」です。なお、事業機会は、USP(Unique Selling Proposition)や、バリュープロポジション(価値提案)などと呼ばれることもありますが、言葉使いが違うだけで意味は一緒です。

ときどき、「3Cなんて特に使うタイミングがない」「基本的過ぎてやっても意味がない」という声を聞くこともあります。それは、事業性の評価を行う業務経験が無かったり、3Cのフレームワークを意識しないまま同様の考え方をしているためではないかと思います。

うまくいく事業は、成功の条件が3C分析に現れるはずです。逆に、3C分析で機会を見出すことができなければ、その事業がうまくいく保障は無いことになります。3Cは、基本中の基本であり、最も重要なフレームワークと言えます。

ファイブフォース分析・バリューチェーン分析

ファイブフォース(5 force)分析とバリューチェーン(Value Chain)分析は、著名な経営学者マイケル・ポーターが提供したフレームワークです。

ファイブフォースは、自社をとりまく5つの競争要因から業界環境を分析し、収益性を判断するために使います。概念的には、3C分析の内容に加えて「売り手(調達先・仕入れ先)」の要素を含んだものと考えることができます。また競合を、「業界内の競争相手(直接競合)」、「代替品の脅威」、「新規参入の脅威」と分類する点に特徴があります。

バリューチェーン分析は、自社の事業活動を機能分解して「価値の連鎖」ととらえます。事業活動の流れの中で、どの機能にどの程度のコストがかかっているかを分析したり、競合他社のバリューチェーンを比較して機能ごとの強み・弱みを分析します。

どちらも、詳細な環境分析や自社分析を行うために有用なフレームワークです。

SWOT分析・クロスSWOT分析

PEST分析や3C分析などで発見した情報を、SWOTというマップを用いて、外部環境における機会・脅威と、自社の強み・弱みに整理し直します。

SWOTとは、Strength(自社の強み)、Weakness(自社の弱み)、Opportunity(外部の機会)、Threat(外部の脅威)の頭文字です。

SWOTと、PEST分析、3C分析の関係図は以下のようになります。

SWOT分析
SWOT分析

クロスSWOT分析は、SWOTの4項目の分析をもとに、4つの戦略パターンを導き出すフレームワークです。SWOT分析はリストアップした情報の分類に留まりますが、クロスSWOT分析を行うことで、自社の事業がとりうる戦略の選択肢(戦略オプション)を自然に可視化することができます。この点がクロスSWOTの非常に有用なポイントです。

クロスSWOT分析
クロスSWOT分析

図中の「Strength(自社の強み)」、「Weakness(自社の弱み)」、「Opportunity(外部の機会)」、「Threat(外部の脅威)」のそれぞれの欄に、SWOT分析でまとめた内容を転記します。続いて、2つの要素(強みと機会など)を条件とした上でどのような戦略がありうるかを考察します。

「積極攻勢」は機会と強みを最大限に生かす戦略、「段階的施策」は機会を生かし弱みをカバーする戦略、「差別化」は強みを生かして脅威を回避する戦略、「撤退・防衛」は最悪の事態を避ける戦略です。

戦略パターンの整理

戦略を発想する方法として最も代表的なものがクロスSWOT分析ですが、他にも戦略の定石(パターン)をもとに戦略案を整理したり、考察を深めるためのフレームワークがあります。 有名なものは以下の通りです。

・成長マトリクス

経営学者のイゴール・アンゾフが提唱したフレームワークです。商品・サービスと市場(顧客)それぞれについて「既存」「新規」に分けて、4つの象限の中でどのような戦略オプションをとるかを整理するために用います。

アンゾフのマトリクス
アンゾフのマトリクス

・プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)

ボストン・コンサルティング・グループが提唱したフレームワークで、市場成長率と相対的市場占有率の2軸で事業・製品をマッピングし整理する方法です。

・プロダクトライフサイクル(PLC)

製品を市場に投入してからの退場するまでのサイクルをもとに、自社製品の位置づけやとるべき戦略を検討することができます。

また、プロダクトライフサイクルをユーザー側の視点から分析するのが「イノベーター理論」です。アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にある「キャズム」を超えることが重要だとされます。

「STP分析で戦略の骨格を作り上げる | 10分で理解するマーケティング戦略の基本【戦略立案編】」に続きます。