この記事では、新製品の開発やスタートアップの世界で超有用なフレームワークである、「バリュー・プロポジション・キャンバス」の解説を行います。

マーケティング戦略の基本で、3C分析が最も基本的かつ重要なフレームワークだと書きました。

3C分析では、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つについて重要な事項を洗い出し、事業仮説(事業機会、UPS、バリュープロポジションなど様々な表現が使われます)を導き出しました。

バリュー・プロポジション・キャンバスとは?

その3C分析をベースに、顧客への価値提案の観点で踏み込んだ分析を行うフレームワークが、以下のバリュー・プロポジション・キャンバス(Value Proposition Canvas)です。

バリュー・プロポジション・キャンバス

バリュー・プロポジション・キャンバスは、顧客の抱える課題やニーズを明確にして、どのような価値を持った製品・サービスを作ればよいかを明らかにするためのフレームワークであり、極めてシンプルながら汎用性の高いものになっています。

Customer Jobs(顧客が解決したい課題)は、顧客が抱える最も本質的なニーズです。有名なレビットのドリルの穴理論を用いて説明すれば、顧客は「ドリルが欲しい」のではなく、「壁に穴を開けたい」のです。後者の「壁に穴を開けたい」が、顧客が解決したい課題になります。なお、クレイトン・クリステンセンの「ジョブ理論」におけるジョブ(課題)と同一の概念です。

また、3C分析の時点では区別していなかった「Gain(顧客の利得)」と、「Pain(顧客の悩み)」を抽出し分ける点が大きな特徴です。こうすることで、顧客の課題の内実や、それに応えるための価値提案を、より明快に整理にすることができます。

なお、顧客のニーズや課題について、観察(エスノグラフィ)により発見した事項や、インタビューで判明したことを整理しつつ、GainやPainを抽出するフレームワークとして、共感マップ(Empathy Map)と呼ばれるものがあります。共感マップについては別の記事で触れたいと思います。

バリュー・プロポジション・キャンバスは、2014年に米国で出版されたAlexander Osterwalder氏の「Value Proposition Design: How to Create Products and Services Customers Want」によって知られるようになりました。 日本では2015年に同著の邦訳「バリュー・プロポジション・デザイン 顧客が欲しがる製品やサービスを創る」が出版され、スタートアップの世界で急速に普及しました。

バリュー・プロポジション・キャンバスの事例

説明はこの辺にして、事例をあげましょう。

レアジョブの事例

以下は、オンライン英会話サービスの「レアジョブ(Rare Job)」のバリュー・プロポジション・キャンバスです。

レアジョブのバリュー・プロポジション・キャンバス

レアジョブは、フィリピン人の英会話講師と日本人の英語学習者をマッチングさせるプラットフォームを築き上げて大成功を収めています。レアジョブのバリュー・プロポジション・キャンバスを作ってみれば、Gain(利得)やPain(顧客の悩み)に見事に合致した、強力なサービスであることが一瞬にして理解できます。

ポケトルの事例

ポケトル公式サイトより

次は、2019年に大ヒットした小型水筒「ポケトル(POKETLE)」のバリュー・プロポジション・キャンバスです。

ポケトル(POKETLE)のバリュー・プロポジション・キャンバス

ポケトルは、今まで誰も気付いていなかった「小型水筒」の価値を掘り起こし、爆発的なヒットを飛ばしました。

開発したDESIGN WORKS ANCIENTの小林裕介代表は、飲み残した500mlのペットボトルを見て「500mlなど飲みきれない。ひょっとして小型化に価値があるのでは?」と気付き、水筒業界のリサーチや、道行く人のエスノグラフィ(行動観察)を経て、ポケトルのコンセプトを固めていったそうです。

ポケトルも、水筒の持つ機能的な価値を軸に、顧客の本当のGain(顧客の利得)やPain(顧客の悩み)に気付き、新しい切り口の製品を生み出すことができました。バリュー・プロポジション・キャンバスの形に明文化すれば、その価値がはっきりと表れていることがわかります。

バリュー・プロポジション・キャンバスは、上記に挙げたレアジョブやポケトルのような新規のサービス・製品の持つ価値を整理するために非常に役に立ちます。だからこそ、IT系のスタートアップで用いられることが多いのでしょう。

ぜひバリュー・プロポジション・キャンバスの意義を理解し、事業に活用していきましょう!