「3C分析で事業機会を発見する | 10分で理解できるマーケティング戦略の基本【環境分析編】」の続きです。

環境分析によって、「自社にとっての事業機会は何か」が明らかになったことと思います。次の戦略立案フェーズでは、事業機会をもとに戦略の骨格を作り上げ、アプローチの方向性を明らかにします。

具体的には、「誰と、どのような関係を築き、どのような価値を提供するのか?」という質問への回答が、このフェーズでのアウトプットとなります。

戦略立案フェーズのアウトプットが、次の施策立案フェーズで施策を具体化する際の土台となります。

STP分析

戦略立案の根幹はSTP、すなわちセグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つであり、フィリップ・コトラーが確立した概念です。

STP分析によって、「顧客は誰なのか?」と、「自社はどのような立場を築くのか?」を明らかにします。マーケティング活動全体の中でもSTPは最も重要なプロセスの1つであり、時間がかかることも多いです。

・セグメンテーション

セグメントとは、顧客のグループのことを指します。顧客の属性を洗い出し、グループ分けするのがセグメント分析(セグメンテーション)です。切り口は、性別や年代といった基本的な属性から、事業に固有の属性も含めて、思いつく限りピックアップします。

事業に固有の属性とは、例えば飲食店であれば、外食にかける費用や味の好みなどが該当します。アパレルブランドであれば、ファッション系統の好みや、読んでいるファッション誌、参考にするファッションリーダーなどが該当するでしょう。

よく利用される属性を分類すると、居住地などの「ジオグラフィック変数(地理的変数)」、人口や性別などの「デモグラフィック変数(人口動態変数)」、パーソナリティや価値観などの「サイコグラフィック変数(心理的変数)」、商品の利用頻度や買い方などの「行動変数」があります。

・ターゲティング

セグメント分析で発見した顧客のグループの中で、どのグループを事業のターゲット(標的)にするかを決定するのがターゲティング分析です。

各セグメントに関して、自社の価値が伝わるグループかどうか、十分な市場規模や成長性があるかどうか、競合他社の状況など、多角的に考察することが必要です。

ターゲットとして適切かどうかを判断する評価軸として、以下の6Rが知られています。これらは、セグメントの属性を考察する際の発想の切り口としても活用できます。

Rank(優先順位):重要な顧客層を選択できているか

Realistic scale(規模の有効性):十分な規模があるか

Rate of growth(成長率):市場は成長しているか

Rival(競合):競合他社の参入状況はどうなっているか

Reach(到達可能性):顧客は商品・サービスへ到達できるか

Response(測定可能性):顧客の反応を測定できるか

・ポジショニング

ターゲットの心の中で、「自社は競合と比べてどのような立ち位置を占めるのか?」を定めるのがポジショニング分析です。顧客にとっての自社の魅力、強みは何なのかを探るプロセスであり、事業の核心を占める作業です。

競合と比較するための軸(切り口)を見つけ出し、自社と他社をマッピングする作業を行います。軸は「ターゲットの心の中にあるもの」であることと、「KBF(購買決定要因)」であることが重要です。この条件を満たさなければ、いくらポジショニングを作っても単なる自己満足の差別化でしかありません。

適切なポジショニングが見つかるまで、何度も何度も軸を切り直しながら考え抜く必要があります。

なお、ポジショニングは顧客のイメージをマッピングしたものであり、パーセプション・マップ(知覚マップ)と呼ぶこともあります。

STP分析

ペルソナ

ターゲティング分析のアウトプットをもとに、リアルな1人の人物像にしたものが「ペルソナ」です。ターゲティングでは、まだ人物の属性をリストアップしただけに過ぎず、特定の人物ではなく、同じ属性をもった人物の集団を指しているに過ぎません。

ペルソナを作成するメリットは、この人だったらどう感じるか?どう考えるか?どんな行動をとるか?をリアルに考えることができる点や、社内で共通認識をもつことができる点です。

ペルソナでは、名前や性別、年齢に加えて、様々なプロフィール情報を作成します。さらに、趣味や価値観、1日の過ごし方なども重要な情報となります。

事業との接点について詳述できると役に立ちます。例えば飲食店のペルソナであれば、味の好み、食にまつわる経験、お店の情報収集や決めるポイント、自炊に対する考え方や習慣など、食にまつわる価値観や行動などを具体化していきましょう。

ペルソナは、作成者の思い込みの人物像となってはいけません。関係者の間でよく議論したり、ターゲットに当てはまる人にインタビューをさせてもらったり、必要に応じてアンケートによる定量調査を行うなど、情報収集や考察をしっかり行った上で作りましょう。

また、ペルソナの作成については、近年発達しているUXデザインの考え方やメソッドが役に立ちます。

ブランド戦略

ブランドの定義は「識別」です。すなわち、顧客の心の中で何らかニーズが発生したときや、ある商品・サービスの要素に触れたときに、「あの商品が欲しい」「これはあそこで見たサービスだ」と識別できるものがブランドということになります。

ブランド戦略の核は、「ブランド・アイデンティティ」(ブランドプロミス、ブランドステートメントなどと呼ばれることもあります)を定義することです。ブランド・アイデンティティとは、商品・サービスが持つ価値の核心を短い文章に要約したものであり、同時に顧客から商品・サービスまたは自社が「どのように知覚されたいか」を表現したものです。

ブランドを、後に登場する4Pの「製品」を構成する要素と位置付ける議論もありますが、私はあまり賛成していません。ブランドは、事業の方向性や施策全体のコントロール、関係者の意識統一をはかる重要な要素であり、戦略フェーズに位置すべきだと考えます。私は「STPにおけるポジショニングを、発展・体系化させたものがブランド戦略」だと解釈しています。

ブランドやブランド戦略については、改めてまとめたいと思います。

「4P/4Cで施策を設計する | 10分で理解するマーケティング戦略の基本【施策立案編】」に続きます。