「STP分析で戦略の骨格を作り上げる | 10分で理解するマーケティング戦略の基本【戦略立案編】」の続きです。

環境分析によって事業機会が、戦略立案によってどのようなアプローチをとるのかが明らかになりました。

施策立案フェーズでは、戦略立案の考察をもとに打ち手やアクションなどを検討し、「どのような製品・サービスを作るのか?どのような活動を行うのか?」を具体的に決定します。

4P(7P)/4C

4Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)の4つであり、戦略を推進するための4つの施策の組み合わせを指します。4つの施策は、戦略との整合性に加えて、相互の整合性を持つように設計することが重要です。

近年は、4Pに対して、サービス業で重視されるPersonel(人)、Process(プロセス)、Physical Evidence(物的証拠)を加えた7Pが重要だと言われています。

4Pは企業側の視点でまとめた施策の組み合わせですが、同じものを顧客側からみたのが4Cです。Customer Value(価値)、Cost(コスト)、Convenience(入手容易性)、Communication(コミュニケーション)の4つになります。

価値とは、製品を利用することによって顧客が得る価値です。コストは顧客の負担を指し、金銭的な負担だけでなく精神的負担、時間的負担など様々な負担を含みます。入手容易性は商品・サービスへの到達のしやすさを指します。コミュニケーションは文字通り、顧客と企業の間で行われるコミュニケーションのことであり、顧客側から見てコミュニケーションが適切かどうかを検討します。

4Pで定めたことを顧客の視点から改めて眺めることで、施策が自社都合のものになっていないかを確認することができます。

4P(7P)と4Cを合わせて、マーケティングミックスとも呼ばれます。

おまけ:UXデザインの位置付け

近年のビジネスでは、UX(ユーザーエクスペリエンス)や、CX(カスタマーエクスペリエンス)が重要だと盛んに言われています。

私が働くIT業界ではマーケターもUX専門家も多数いますが、彼・彼女らが非常に仲が悪く、議論も相容れずに仕事が進まないケースを数多く見てきました。UX専門家が侮蔑的に「マーケの連中は思い込みで仕事をしてるだけ」と公然と発言したり、マーケターはUX専門家について「ビジネスのわからない頑迷な人たち」といった陰口を叩くのをよく聞きます。専門家の間では自らの職域や権威性にも関わってくる問題であるため、ややこしくなるのかもしれません。

私は、(珍しく?)伝統的なマーケティングの世界と、UXデザインの手法を使った製品開発の両方の経験があるため、幸いにしてどちらか一方に肩入れせず、俯瞰的に物事を見ることができているのではないかと思います。

現時点での概念的な整理としては、4P/4Cに、STPにおける「ペルソナ」の概念を含めて発展・体系化したのがUXデザインに重なると考えています。マーケティングは概念上、UXデザイン、すなわち顧客を理解することと、顧客の理解のもと適切な体験を作り出すための理論やプロセスを含んでいます。ただし、概念的に含んでいても方法論を備えているかは別の問題です。マーケティング理論が、顧客視点の製品作りについて現実的なメソッドを作ることができなかったからこそ、異なるバックグラウンドを持つ人材がUXデザインの手法を発展する必要があったのではないかと思います。

UXデザインの理論やプロセスの詳細については、改めてまとめたいと思います。

プロセスの反復

マーケティング活動で重要なことは、一連のプロセスを1回やって終わりにするのではなく、何度も何度も行きつ戻りつして、解を探っていくことです。このプロセスを反復し続けることがマーケティングそのものだと言えます。

例えば、最初に3Cで思いついたことが、STPのフェーズでどうしても自社のポジションとして出てこない、といったことがよく起こります。そのときは改めて3C、あるいはその前のPEST分析などに戻って考察し直す必要があります。

最初から全て綺麗に整理できたら、分析が浅すぎたり、重大な見落としがないかを疑った方がよいと思います。

おわりに

以上見てきた通り、マーケティング理論にはたくさんの専門用語が登場するため、慣れていない方は混乱するかもしれません。ただし、どの概念も結局のところは、「顧客は誰か」「顧客は何を望んでいるか」「自分たちは何ができるのか」といった事業の基本的な問いを、様々な角度から繰り返し分析・考察しているだけなのです。

ビジネスの現場では、次のような疑問が頻繁に浮かんだり、議論の的になったりするはずです。

・自分たちはどういった人を顧客にすべきなのか?
・顧客が悩んでることはたくさんある。どこに事業のチャンスがあるだろうか?
・顧客に対して、どのようなメッセージを伝えていくべきだろうか?
・自社のどのような資産が事業に生かせるだろうか?
・どういった企業が自社の競合とみなせるだろうか?
・同じ事業をやっている他社に対して、自社はどう対応したらいいだろうか?

何度も触れている通り、このような疑問を扱う最も基本的なフレームワークが、3C分析とSTP分析の2つです。マーケティングの戦略作りに習熟することは、この2つのフレームワークを、精度を高く、徹底的に使い倒せるようになることと同義です。

巷には様々な書籍、Webサイト、セミナーなどが溢れていますが、そのほとんどは今回紹介した基本的な事項の一部分について詳細化したり、表現を変えたり、様々な応用分野に同じメソッドを当てはめているだけのことが多いです。

おそらく大勢の人が、経験を積み自分なりに試行錯誤すれば、似たような概念の整理にたどりつくのではないかと思います。

参考文献

・フィリップ コトラー, ゲイリー アームストロング, 恩藏 直人「コトラー、アームストロング、恩藏のマーケティング原理」
・ケビン・レーン・ケラー 恩藏 直人 (翻訳)「エッセンシャル戦略的ブランド・マネジメント第4版」
安藤 昌也「UXデザインの教科書」